『大東亜戦争とスターリンの謀略 ー戦争と共産主義ー』
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これは面白い本であり、衝撃的な本である。
しかも、今だからこそ冷静に読む事が出来る本でもある。
著者は昭和三年から特高警察も管轄する内務省警保局などに勤務し、昭和十一年から約十年間衆議院議員であった三田村武夫氏である。

既に書名から分かるように、先の大東亜戦争が、ソビエトのスターリンが指揮する国際共産党コミンテルンの謀略によって、対米英開戦に踏み切ったものであるとする本である。現在、世間一般では、戦前において共産主義者は戦争に反対していたと言われ、皆そう信じている。かく言う自分もそうだった。この本を読むまでは…

レーニンは1920年11月にモスクワ共産党細胞書記長会議で次のように語ったという「全世界における社会主義の終局的勝利に至るまでの間、長期間にわたつてわれわれの基本的原則となるべき規則がある。その規則とは、資本主義国家間の矛盾対立を利用して、これらの諸国を互にかみ合すことである。われわれが全世界を征服せず、かつ資本主義諸国よりも劣勢である間は、帝国主義国家間の矛盾対立を巧妙に利用するという規則を厳守しなければならぬ。現在われわれは敵国に包囲されている。もし敵国を打倒することができないとすれば、敵国が相互にかみ合うよう自分の力を巧妙に配置しなければならない。そして、われわれが資本主義諸国を打倒し得る程強固となり次第、直ちにその襟首をつかまなければならない」(37頁)そして、資本主義国の内部において共産主義者は祖国の開戦と敗戦のために動き、戦争を内乱に誘導するか、敗戦後の革命を目指す事を主張している。

レーニンが発案し、コミンテルンの方針となった、この謀略作戦を日本で忠実に実行したのが、かの有名なドイツ人共産主義者リヒャルト・ゾルゲのスパイ団の一員の尾崎秀実だった。この本を読めば分かるが、尾崎は優秀な共産主義者である。次の時代を読む目、戦略をめぐらす頭脳、自分の正体を隠し目標を達成する精神、いまの反戦護憲反核を喚いている単細胞生物共を「共産主義者!」と罵倒するのは尾崎に失礼に思えてしまう。この本の書名も『大東亜戦争と尾崎秀実の謀略』とした方がしっくり来るように感じた。

尾崎は広く知られているスパイ活動のみならず、コミンテルンの方針に従い、「日本帝国主義」を「米英帝国主義」とかみ合わせるために、様々な謀略活動を行う。日支和平を潰し、大陸での戦いを長期化させ、日本を南進に導くように働きかけて行く。尾崎は日米が緊迫の度合いを高め、いよいよ開戦かという時に次の様な論文を雑誌『改造』の昭和16年11月号に書いている。
「…当局は日本国民を率ひて第二次世界大戦を戦ひきる。勝ち抜けるといふ大きな目標に沿ふて動揺することなからんことである。日米交渉も亦かかる目的のための一経過として役立たしめた場合にのみ意味があるものといひ得る。又今日、日本には依然として支那問題を局部的にのみ取扱はんとする見解が存在している。これは世界戦争の最終的解決の日までかたづき得ない性質のものであると観念すべきであらう。私見では第二次世界大戦は『世界最終戦』であらうと秘かに信じている。この最終戦を戦ひ抜くために国民を領導することこそ今日以後の戦国政治家の任務であらねばならない。…」(187頁〜188頁)
共産主義者として、しっかりと戦争を煽っている。

そして、この尾崎秀実は近衛文麿首相のブレーンであった。近衛首相はのちに 昭和天皇に自らが共産主義者に操られていたかも知れないという上奏文を提出している。

この本が出版されたのは昭和二十五年である。敗戦から五年しかたっておらず、米軍の占領下であり、国内は獄中から沸き出して来た共産主義者の天国であった。そのような既存価値観崩壊の状況下で書かれたため、アメリカに対する著者の考えは記されていない。そもそも先の戦争はアメリカのアジア侵略=日本への宣戦という意図があったことは明々白々であり、アメリカが日本を開戦に追い込んだ事は紛れもない事実である。その視点を忘れている(ないしは占領下の事情で書けなかった)のでは無いかと思う。

全体の記述も共産主義者への過大評価めいた物も散見されるが、これは今だからこそ冷静に読む事ができる。尾崎をはじめとする共産主義者達がしたことは、刀を抜かざるを得ない状況になっている日本国家の背中を、大勢の世論の中の一つとして押したという事ではないかと感じた。

いずれにしても面白い本であるから、皆さんも是非とも読んでみてはいかがだろうか。

http://www.daitouasensou.com/
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by shikisima594 | 2006-01-04 01:30 | 読書録
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