『天皇ごっこ』
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 さきほど、皇居勤労奉仕から戻ってきた。本来ならその報告を書くべきなのだが、五日間にわたる活動で、いろんなことがあったので、報告は明日に送りたい。今回は「天皇」というテーマを考える上で非常にユニークな一冊の本を紹介したい。

暴走族、新左翼、右翼、刑務所、精神病院、作家、自殺…

 一見すると、普通の一般市民がおおよそ経験することも関係する事もないようなものである。実はこれらの言葉こそが、今回紹介する本の著者である見沢知廉氏の人生を物語るキーワードなのだ。

 見沢氏は中学時代から親や教師に反抗し、暴走族になり、その後、学校教育や社会への批判意識を強め新左翼運動に参加し、成田管制塔事件などを闘うが硬直した組織と思想に違和感を感じ新右翼組織統一戦線義勇軍に加入する。

 そして新左翼の頃の感覚が抜けず、「スパイ粛清事件」を起こし千葉刑務所などで十二年服役する。この間に精神を患い、精神病患者用の監獄もくぐる。しかし、獄中でこの本『天皇ごっこ』で新日本文学賞を受賞し、出獄後は作家となり、去年の9月7日に自殺した。

 一見して信じ難いような無茶苦茶な人生を送ったようにも見えるが、見沢氏は常人を越えた感性と知識を持っていた、いわゆる“天才”であったことは、氏の著作を読むと否応無しに伝わって来る。

 この『天皇ごっこ』は、氏の経験を通じて「天皇」とそれを取り巻く現象を、非日常のフィルターを通す事によって、氏なりに描き切った日本文学史上に残る異色の作品だろう。刑務所、右翼、新左翼、精神病院、北朝鮮に生きる人々が天皇という御存在を意識した時どうなるか。その問い掛けと描写が実に興味深い。

 天皇は無私の変わる事のない大御心のままに君臨されている。それをめぐって全く立場が異なる人々が大山蠢動する。この構造こそが「ごっこ」だと見沢氏は言いたかったのではないだろうか。人によってはこの本を読んで、不敬だと怒る人もいるかもしれない。

 しかし、それすらも天皇をめぐる「ごっこ」の一環として見沢氏が想定していた事のうちだと考えると、この『天皇ごっこ』は恐ろしい本だと思う。しかし、一度この本と向き合ってみる事も必要だとも思う。また、思想的なものは抜きに、純粋に文学作品としても十分に楽しめる。

 先般、昭和天皇の御発言とされる「富田メモ」が出た。この一枚のメモをめぐって、日本は各界各メディアが大騒ぎした。普段は尊皇精神のかけらもみられない者達が「大御心」と言い始めた。あの東京大学の姜尚中すらもNHKの番組で「大御心」と口にしていた。

 今回の一連の騒動を見沢氏ならばどのように見て、どう描いたのか。それだけに見沢氏の死は実に惜しまれるし、『天皇ごっこ』の通して、日本人がそれぞれの頭で天皇を考える機会に接する必要があるのではないだろうか。

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by shikisima594 | 2006-08-10 22:43 | 読書録
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