「昭和は遠くなりにけり」
いつの頃から、誰が言い出したのか知らないけれど、そんな言葉を耳にする。自分は昭和生まれで、いまの皇国史観研究会一年生達がギリギリ昭和生まれで、来年には平成生まれの世代が入って来るわけだ。年配の人はそれを聞くと「もう平成生まれが大学生になるのかぁ」と感慨深そうに言う。 明治、大正、昭和、平成。元号で時代を把握できるのは、日本人ならではの感覚だ。平成といえば、小渕さんが色紙に書かれた「平成」の二文字を記者会見でかかげているところが、平成の始まりというイメージがある。 この『昭和歌謡大全集』も、題名に「昭和」を冠した実に日本的な題名の映画だ。原作は村上龍で、少年グループとおばさんグループがちょっとしたトラブルから、懐かしの昭和歌謡にのって殺し合いを始めるという荒唐無稽なエンターテイメントで、だから『昭和歌謡大全集』なのだ。かなり好き嫌いが別れると思うが、グロいけど笑える構成になっている。 少年グループの一人を『御法度』でデビューした松田龍平が演じ、トカレフから原子爆弾までもあつかう広田金物店の店主を『凶気の桜』で任侠右翼会長役だった原田芳雄が演じている。こうした配役もおもしろい。 しかし、かなり気になった点が一つある。言うまでもなく昭和という時代は、昭和元年十二月二十五日から昭和六十四年一月七日までの六十二年と二週間ある。ところが、この『昭和歌謡大全集』に使用されている、往年の「昭和歌謡」を見てみよう。 (昭和22年)「星の流れに」 (昭和22年)「港が見える丘」 (昭和32年)「チャンチキおけさ」 (昭和32年)「錆びたナイフ」 (昭和41年)「骨まで愛して」 (昭和42年)「君といつまでも」 (昭和42年)「白い蝶のサンバ」 (昭和43年)「恋の季節」 (昭和46年)「また逢う日まで」 (昭和56年)「風立ちぬ」 (昭和58年)「SWEET MEMORIES」 (昭和62年)「リンダ リンダ」 一見してわかるように、昭和の三分の二の曲しか登場していない。昭和元年から二十一年までの曲が一曲も使用されていないのだ。「第二次大戦後に朝鮮、ベトナム、ドイツは空間的な分断国家になったが、日本は“戦前”と“戦後”という時間的な分断国家になった」という指摘があるが、その分断現象がこの映画には色濃く表れている。昭和十年代には「出征兵士を送る歌」や「麦と兵隊」が大当たりしている。まさしく押しも押されもせぬ“昭和歌謡”ではないか。 ところが、戦争の印象がついたものは全て切り捨ててしまうのを当然とする風潮があるから、『昭和歌謡大全集』はこんな構成になってしまったのだ。「戦後」という見えないカッコがついた昭和は明るい昭和で、戦前が冠せられた昭和は真っ暗の忌むべき時代という意識が多くの日本人の中にいまだにあるのだろう。いや、むしろそうした意識が強くなっているのではないか。なぜなら、昭和四十年代には、あのザ・ドリフターズが軍歌のカヴァー曲を出していたのだから。 「ドリフのズンドコ節」というのは元は軍歌だ。ズンドコ節というのは俗称で本当は「海軍小唄」といった。しかし、時代の流れは恐ろしいもので、歴史的分断国家となった我が国の、「戦前」と「戦後」の亀裂はますます深まり広がっているようだ。 それを防ぎ、日本人に戦前と戦後の歴史的連続性を取り戻させる意味で、是非とも『昭和歌謡大全集』に昭和元年から二十年までの歌を入れてリメイクしていただきたい。 応援のクリックを!
by shikisima594
| 2006-08-27 23:31
| 映画
|
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