『皇室消滅』
f0018981_032275.jpg 秋篠宮家に親王殿下がお生まれになって皇室典範改定をめぐる議論は、しばらくはお休みになるかにみられたが、現在の皇室典範では将来的にみて、皇位継承者が悠仁親王殿下お一人になってしまう事態は避けられない。

 この問題をどう解決するか、それと同時にどうやって盤石な皇位継承のしくみ支え、国体と伝統を守って行くかの議論が求められる。この『皇室消滅』(ビジネス社)はそうした議論が高まりを見せていた今年の三月に出版された本だ。

 上智大学の渡部昇一教授と筑波大学の中川八洋教授の対談で、皇位継承をめぐる問題とその対処方法が語られている。中川氏は憂国・尊皇の装いをしているが、他にも『皇統断絶』『女性天皇は皇室廃絶』など、おどろおどろしい不吉なタイトルの人目を引くような本を売らんがため商魂丸出しで出版している。本当に保守を自認するならばこうした題名は避けるのが常識だろう。

 渡部氏もよくわからない。“反米保守派”の代表格である小林よしのり氏と対談したかと思えば日本きっての親米保守派である中川氏と対談して会話が成立しているのだから不思議だ。渡部氏の器の広さ(?)には驚かされる。

 さて肝心の中身だが、意外と重要な指摘がいくつかあって興味深いものもある。従来の「女系天皇反対」だけではなく、女性天皇と女性宮家にも反対し、その理由を述べている。つまり皇室を大阪城の天守閣としたならば、男系男子は強力な外堀であり、男系は脆弱な内堀なのだ。

 一端、男系の女性天皇を認めてしまえば、その子供を認めない論理は厳しくなる。そして女系天皇の誕生により皇室という天守閣は焼け落ちる、と。女性天皇を認めてもいいと言う一部保守派の言説は徳川家康が大阪城の外堀を埋める時の甘言と同じであると中川氏は指摘している。

 また有識者会議に関しても小さな証拠を大量にあげて徹底的に批判しているので、是非とも一読しておいて損はないはずだ。こんな連中をよくも皇室典範改定をめぐる“有識者”として選出したものだと、選んだ人間の良識を疑いたくなる。

 ただ、中川氏は保守派批判が過ぎて、個人名をあげての罵倒には、さすがに対談相手の渡部昇一氏も「コメントを差し控えさせてもらいます」と応じている。対談本でこんな“電突”みたいなやり取りは初めて見た。かなり中川氏が飛ばしていたことが伺える。

 しかし、中川氏は今回ばかりは少し飛ばし過ぎたかもしれない。いろいろと変な発言がポロポロと…まぁ、いつも変な事を言っているというツッコミは無しで。

渡部「実は自分は、女性天皇制度で大変恐れていることあります。その皇配(皇婿)に朝鮮人が入り込む可能性が高いという懸念です。これは杞憂ですか。」
中川「いいえ、杞憂ではありません。私も、確率的には九十%ぐらいで『朝鮮人』が立候補すると推定しています。日本人であれば、女性天皇になられるお方の夫など畏れ多くて、誰も立候補なんかしません。そもそも近づきませんよ。
 国籍が日本で、ハングルもできない、朝鮮文化がその生活にまったくない、そんな完全に日本人化した『朝鮮人』は多いのです。しかし、日本への怨念だけが、『朝鮮人』であり続けています。これをどうやって識別し排除するかのですか。また、これを排除したら、結局、婿はいない、ということが現実には必ず発生します。」(47〜48頁、原文ママ、括弧は引用者)

 中川氏は朝鮮人に関して『皇統断絶』(ビジネス社)の中で、「朝鮮人はすべて、日本国籍をとっても、韓国系であっても、マルクス・レーニン主義者と変わるところ無く、天皇への憎悪感情の炎を燃やし続ける。」と明確に書いている。つまり、敬宮愛子様のお相手は皇室を憎悪する共産主義者の朝鮮人しかいないと断言しているのだ。余りに荒唐無稽だし、不敬極まりない。

 女性天皇が俎上にあがりはじめると、保守派の中からぺ・ヨンジュンや堀江貴文が婿になると言っていた連中がいたが、それよりもずっとヒドい。確かに可能性としてはあるが、実際問題としては荒唐無稽な話だ。皇室に憎悪感情を燃やす共産主義者が皇族と結婚し、普通の結婚生活を送れるはずがない。そんなことも分からないのか。

 この論理は逆を返せば、いまの制度上でも細木和子やデヴィ夫人が皇太子妃や皇后になる可能性がある、という主張と軌を一にしている。いかに女系天皇反対とはいえ言葉が過ぎる。他にも面白い事を言っている。

中川「…『法人』に対して『自然人』は双方が別々のものだから、概念として成り立ちますが、『天皇という一人の人間が国家機関と自然人の二つからなる』などとは、ガンダム戦士のように『変身』する体でないとできないですし、子供漫画でしか実在できません。」(157〜158頁)

 中川八洋氏は昭和二十年生まれで、今年六十一歳になる。その中川氏の口から「ガンダム」が出て来るとは驚いた。しかし、中川氏は大きな誤りを犯してしまった。わかる人はわかると思うが、ガンダムは“変身”しないのだ。軽く“変形”するだけだ。

 中川氏は以前、他の論客のことを「自転車と自動車の区別がつかない、エンジンの有無が理解できない未開人」と罵倒していたが、中川氏こそ「変身と変形の区別がつかない未開人」ではないか。いきなりガンダムなど持ってこないで、大人しく「鉄腕アトム」からやり直したほうがいいだろう。

 この対談を読んでいて気付いたのは、渡部昇一氏は楠木正成や和気清麻呂などの名前を出して話をするが、中川氏の口からはガンダム以外には、マルクス、レーニン、スターリンとエドマンド・バークが何とかの一つ覚えのようにしか出てこない。田中康夫なみにカタカナ語が好きな人だ。これが二人の歴史感覚と根ざした思想の違いを物語っているかのようだった。

 まぁ、そんな中川氏のイタいところは差し引いても、十分に皇室典範改定の問題を考える上で参考になるので読んだ方がいい。ただし、あくまでも図書館で。

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by shikisima594 | 2006-09-14 02:27 | 読書録
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