「宣言」は実に明快である。封建社会では領主は奴隷を支配するために、奴隷が生存できる最低限の条件を保証し、それらの生産様式を維持していた。 しかし、近代社会においてブルジョアジーは競争原理により生産様式を絶え間なく変えていかなければならず、その結果発生する商業恐慌により労働者は常に不安定な立場に晒される。つまり、中世の奴隷に保証されていた生存の条件すら保証されないのだという。このことから「宣言」は「ブルジョアジーの没落とプロレタリアの勝利は、いずれも不可避である」と結論づけている。 これらの理屈、特に最後の結論に関しては、実際の社会を見てみれば分かるように、現在の段階では、あたっているとは言い難い。現代社会は「ブルジョア」の天下である。「宣言」の理屈に従うならば、資本主義が高度に発達した社会ほどプロレタリア革命の前夜ということになるだろうが、数%の人間が国の富の九十%以上を独占するという異常な貧富の格差が存在する、資本主義を絵に描いた様なアメリカは政府も国民も揃って反共意識が強い国柄である。 しかし、これにはアメリカ特有の事情があるように思う。つまり、国内に向かっては、誰でも成功できるというアメリカンドリームをつくることにより国民の現在の不満が未来への幻想によってかき消されるようにし、外部には自国に危害をもたらすという仮想の敵をつくる事により、多民族で不安定な国家を団結させ、国民の経済的な社会不満を外側にそらせる。それを表すように、アメリカ映画は上記の二つ「内部の夢」と「外部の敵」を描いたものが余りに多い。 また、敵であったかつての共産ソビエトを倒したという事実が、国民の共産主義に対する“免疫”になっているのではないだろうか。 いずれにせよ『共産党宣言』が衝いた資本主義の問題点は資本主義が資本主義である限り永遠に抱える問題であり、その問題が解決されない限り、資本主義に対するアンチテーゼとしての共産主義が死ぬ事は無いだろう。「ソビエト死すとも、共産主義は死せず」といったところか。 (つづく) (写真は、新訳刊行委員会により、現代文化研究所から最近、出版された『新訳・共産党宣言』である。出版者に馴染みがない人が多いと思うが、これは革命的共産主義者同盟全国委員会=中核派である。「新訳」というだけあって、かなり読みやすい翻訳になっている。また、本文中で日本共産党による『共産党宣言』歪曲を糾弾している。)
by shikisima594
| 2006-01-13 13:40
| 読書録
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