今回からようやく、私の考えを詳細に解説する段階に入ることができる。前回私の考えを大枠で明らかにしたが、今回からは一つ一つに解説を施し、理論の完成につとめなければならない。第一回は、この考えである。
〇一、現代を、文化混合の躍進した望ましからざる時代と捉え、 近世以前から、日本は西洋の文化の影響を被ってきた。イベリア半島の二国家が率いる諸民族が日本を訪れ始めた当初、多くの技術、或いは美術は、むしろ日本のほうが進んでいたものが多くあったという。彼らは、発見した東方の二大陸から搾取した膨大な富を欧州大陸に持ち込み、それらは欧州の諸国家に分配されると、やがて革命的な技術の発達と、美術や哲学の発展を結んだ。 しかして、いまさら西洋の成功について多く述べる必要もあるまい。だがこのくだりには、どうしても注目する必要がある。何故といえば、我々は技術で成功した彼らに圧倒され続けて、屈辱の百年を過ごし続けているからである。 これまで私は、彼らの文化的影響を多く告発してきた。しかし、それはつまり現状を直視せよというに過ぎないのであって、しかもそれは我々を蝕む精神的な何かである以前に、非常に外面的で、現実的で明白な視覚的或いはその他の物理的感覚によるところである。端的に言って、以下のことでしかない。 目の前を見よ。あたりを見舞わせ。町へ出よ。遠く出でよ。見知らぬ土地を訪ねよ。さて、どれだけ日本的なものがあるのだ? 巷の若者は、人の昔にアダムとイヴを思い起こし、英語の国際性を快く美術の手段として受け入れ、果ては欧州の言葉で子に名づける親が増えつつある。今はそれも特異な例としてあげれるのに留まるが、いつそれが普通となってしまうものか、知れたものではない。服装、髪型、歌曲、嗜好、建築、絵画、漫画やアニメ文化に至るまで、およそ美意識に関わるもので、西洋の文化或いはそうと捉えられるものを規範としないものは無い。つまり、我々の社会は、もはや西洋文化無しには成り立たない。西洋文化がファッションの規範として定着したからには、新たな世代に属する者で、西洋の影響を被らないものはほんの特例である。 もちろん学会では、欧米の思想があたかも普遍的思想であるかのように受け入れられ、全ての学問の基礎となっている。思想、芸風、規範意識、国際関係など、西洋風というものは日本のみならず世界中に浸透しきっている。これに関しては、だいたいに及ぶ反論は聞かない。これほど具体的なことも、そう多くあるまい。 また、現代において支配的な潮流には、西洋に及ぶものではないものの、見過ごせないものとしてもう一つ大きなものがある。「国際化」あるいは「グローバル化」というものの一部であり、民族や国家の垣根を、あえて取り去ろうとする文化のことである。この多くは、全然西洋的で、西洋を基準とするにもかかわらず、この種をそのほかのいくつかの文化に結びつけることで、文化間の協調が得られたと満足する発想と慨することができる。この百年ほど、「和洋折衷」が「新たな文化の形態」としてもてはやされ続けてきたが、その類をいう。また、西洋のものが無い場合にも、和と中華の融合なり、和と韓の融合なりという形で、とにかく異質なものどうしを結びつける。かかる運動の結果、この世に純然な和という物はなくなったのである。 さて、我々には日本人或いは日本という立場があって、これは自らを非西洋として捉えてきた。純然たる我々の立場は、西洋とはほとんど相容れない何かであることは間違いない。されば、我々は内なる他者に埋め尽くされようとしているのだ。 この状況を放置すれば、ある日西洋以外の我々という立場が完全に消滅したところで、何も不思議はないといわなければならない。それが天皇であれ、皇室であれ、或いは一応の独立国日本であれ、または日本民族であっても、アジア主義的立場であってもおかしくは無い。私は、これらの点について、保守主義的な立場の楽観論とは一切距離を置いている。彼らは、少なくともある種類の日本文化が既に消滅したことを捉え切れていず、だからこそその脅威を把握できていないのである。 我々は規範意識から他者を排除する意識を持つべきであり、また同時に、そこに民族意識を取り戻すという意志をも抱かなくてはならない。少なくとも、現実において不可能なときでさえ、それらの影響を排除し、古来の日本的な文化に戻すという意識が最も望ましい。しかも、この点はもっと具体的に、民族という立場を押さなければならない。我々は一先ずオオヤシマ民族であり、西洋を構成するいかなる民族とも異なる文化を本来の姿として持つ。ゆえに、我々の民族文化は危篤であるとしなければならないのである。民族主義の観点では、当然の問題意識である。 しかしながらこの問題意識は、現状に留まるのみならず、更に進化させられることが明らかとなる。この点は非常に大きな問題であるといえる。 それというのも、確かに情報技術の躍進しきった現代において、外国の影響が今までなかったほど強くなっていることは否めない。だが、本当に外国の影響というものは、現代に始まったのだろうかという疑問である。その結論は明らかである。わが民族に対する他者からの文化混合は、実は現代特有の事象ではないのである。 この問題は、我々の考えが必然的に求めるところからなっている。すなわち、我々民族の原点である。 もし、歴史の中で、明白なる他者の文化が、これまでに受け入れられているのであれば、実は我々が守ろうと考える日本文化も、所詮は文化混合の産物に他ならず、ひいてはその文化が更に他の文化と混合することを避けるべき由など見当たらず、結果として、それまでになかった物でも受け入れなければならないのではなかろうかという恐ろしい疑念がぬぐいきれないとき、我々は同時に次のような葛藤にある。我々が戻るべき、真の姿というものが果たしてあるのかないのか、そして、あったとしたら、それは一体どのようなものなのかということである。 もし文化には真の姿などなく、ひいてはその主体性など問うても空しいのだとすれば、たちまち民族主義は、なにか歴史を通じて変わらぬものを守る思想でなく、時を経てどんどん変わっていくなんでもないものを一時的に守るに過ぎないという論理を暴き出すに陥る。 このような思考の赴くところ、我々は現代で失った本来の基準というものに対して、嫌でも掘り下げて考えなければならなくなる。 現代までに伝えられてきた「古来の伝統」のなかには、果たして我々のような民族主義的立場が守らなければならないものばかりであるか否か。そして、我々は、一体何を取り戻さなければならず、また何を排していかなければならないのだろうか。 その問答の際、実は現代という時代は、その葛藤に多くの資料を提供してくれるのである。具体的には、世界の全体像の把握であり、歴史の資料が手に取りやすいことであり、また社会的な現象が目耳に触れやすくなったということである。 現代は、その発展した技術ゆえに、ありとあらゆる情報が離れた他者に伝わりやすい。それは民族の境界と政治範囲を判然とさせ、世界全体を我々に伝える役を果たしている。情報化社会をもたらした現代は、現状では確かに我々民族主義を貶める最大の障害である。しかし考えようによっては、情報が伝わりやすい今の状況は、逆に我々に、歴史を省みる機会を与えてくれているのではなかろうか。そして、情報媒体は、これまで我々を攻め続けてきたのだが、やり方を変えれば我々でも、攻めに転ずることができるのではなかろうか。この視点をもっと端的に提示して、この章を終えたい。 我々は、危機的な現状を打破するための大規模な文化回復運動を期すに臨み、今だからこそ伝統文化の問題点を、本質的な視点から大々的に反省することができるのである。 ムネカミ 応援のクリックをお願いします
by shikisima594
| 2007-02-02 23:57
| 随想・雑記
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