三島由紀夫『若きサムライのために』
f0018981_22515856.jpg 僕は国士舘大学に在籍して学業を続けている。大学名は読んで字の如く、「国の士(サムライ)の舘」となり、国家にとって柱や礎となるような人物を育む事を旨とした大学である。

 大学名に「士(サムライ)」と関した教育機関は少ないし、ましてやそのサムライが国家にとってのサムライであると規定した大学は我が国士舘大学だけであろう。僕はこの事を大変誇りにしているし、そういった志と理念を持った教育機関で学べる事を嬉しく思っている。

 最近、大学の教授から聞いた話だが、この国士舘大学という名前は現在では日本人学生よりも、中国や韓国からの留学生の方で評判が高いらしい、彼らの国では、国士とはまさに天下第一等の祖国のための人物といった意味で、祖国に帰ってから学歴が「国士舘」となっていると大変に胸が張れるという。

 そういった話を聞くと、国家のための人物としての「士」を尊ぶ中国や韓国の習慣と信念が羨ましくもあるし、まだまだ「国士」という名前に誇りと自信を持ちきれない日本人学生について残念でもある。「士」とは本来、男性を意味するところであるが、さらに意義を深めて「侠」や「漢」といったものよりも思想的・道統的な意味合いを加味し、サムライという概念をつくり出したのは、実に日本の精神風土に他ならない。

 ではサムライとは何か、武士道とは何か。
 そういった時に我々はそれに対する明確な答えを出し得るだろうか。山本常朝の『葉隠』を持って来る、新渡戸稲造の『武士道』を挙げる、藤原正彦の『国家の品格』を説くなど、議論百出するだろう。

 それらは一面において武士道とサムライの片鱗を描き出し、記しているかもしれないが、全体像を描いているとは云い得ないのではないか。マルクス主義のように一時代の特定の人物がつくった思想ならば数冊の本を通読すれば概要を知る事は出来る。

 しかし武士道とサムライとは、前述の通り日本の精神風土が長い主に封建生社会を中心として育んだ精神と生き様、価値感であり、それは数冊の本において全体が理解し得る性質のものでは決して無い。

 そうした前提の上で、サムライとは何かを考える手がかりとして今回は三島由紀夫氏の『若きサムライのために』を挙げたい。「昭和のサムライ」と呼ばれた三島由紀夫氏がサムライの血を受け継いだ日本の青年たちにしたためたのが、本書である。

 本書の精髄は前半における「若きサムライのための精神講話」にしっかりと込められている。この中で自分が最も好きな話は、「信義について」の章である。以下に一部を紹介する。

「一旦約束を結んだ相手は、それが総理大臣であろうと、乞食であろうと、約束に軽重があるべきではない。それはこちら側の信義の問題だからだ。
 上田秋成の『菊花の約』という小説は、非常に信じあった友人が、長年の約束を守るために、どうしても約束の場所、約束の時間に行くために、人間の肉体ではもう間にあわなくなって自殺をして、魂でもって友人のところにあらわれるという人間の信義の美しさを描いた物語である。その約束自体は、単なる友情と信義の問題であって、それによってどちらが一文も得をするわけではない。その一文も得をするわけでもないのに命をかけるということは、ばからしいようであるが、約束の本質は、私は契約社会の近代精神の中にではなく、人間の信義の中にあるというのが根本的な考えである。一人一人の人生にとって、時間というものは二度と繰り返せぬものである。」

 三島氏にしてはじめてこの例えあり、と唸らせられてしまう。人間の信義こそが、明文化された契約や、金銭取引、利害関係を超越して最も重い所以を端的に説き著している。この信義に殉ずる者こそまさにサムライである。

 そして信義に殉ずるためには、至誠の境地にまで高められた誠意が必要不可欠である。上記文中では、ある男は友人との信義を果たすために自決している。これは極めて文学的な表現かもしれないが、信義の重さと、サムライのサムライたる所以は実にこの誠意の透徹した境地に他なるまい。

 新撰組が「誠」を旗印にし、国士舘大学が徳目として第一に誠意をあげているのも、実にサムライの根本的資質に対する追究があって事であろう。しかしどうだろう、昨今は携帯電話の普及により、「あー、もしもし、ごめん。今日さぁ、ちょっと急に用事はいっちゃって行けなくなったわ」で信義が宙を舞い、サムライは消えつつあるではないか。

 サムライとは何か、人間の美しい生き様とは何かを考えさせられ、自らにとっても自警の書となるのが、この『若きサムライのために』ではなかろうか。

文責:タカユキ

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by shikisima594 | 2007-03-30 23:42 | 読書録
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