先日の朝方、ぐっすり寝ていると電話が鳴った。知らない番号だけど出てみたら、某有名マスコミだった。うーん、マスコミ業界は別に就職希望を出していないのに、リクルートに来たか、というわけはなく、知人の紹介で僕を取材したいというのだ。
聞いてみると、「いまの日本が右傾化していると思うのですが、そうした現象とその背景にスポットを当てたモノを描き出すことによってですね…」と一気にコンセプトを話しはじめる。大学に入学して以来、この手の話を受けるのは何本目だろうか。 国内外あわせて十回近く取材やら何やらを受けて来た。全てに共通するのは「いまの日本が右傾化している」という問題意識である。電話口の担当者は企画を一通り話して、おもむろに「いまの日本が右傾化していると言われていますが、どう思いますか?」と聞いて来た。 何度も聞かれ続けて来た質問だ。大学一年生のころは自分の希望的観測も交えて「うーん、そうですねぇ、いい意味で右傾化してるんじゃないですかねぇ」などと無責任でノンキに答えていたけど、いまはこの問いに明確に「否」と答える。 実際に自分の周囲を見回す。皇国史観研究会の会員数は冷戦崩壊前後の結成から、だいたい10人前後で推移してきた。それは「右傾化」と言われる今でも変わらない。皇国史観研究会に限らず、他大学の民族派系サークルも同様だし、実際に社会で活動する組織も同様だ。活動ヘの参加人員は平行線か、微減ぐらいだ。 なので僕が率直に「右傾化なんてしてませんよ」と答えたら、電話口の担当者氏は随分と焦ったように、「いや、それは違うと思いますよ!なぜならですね!」とまくしたてて来る。こっちは聞かれた事に答えただけだし、そのうえ寝てたんだからイイカゲンにしろと言いたかった。どうも彼らマスコミ的には日本が「不健全」に「右傾化」していないと困るようだ。変な話だ。 では、マスコミが「右傾化」の根拠に挙げるものは何か。概要以下の通りだ。 ・小泉前総理、安倍総理の支持率が高い。 ・8月15日に多くの国民が靖国神社に参拝するようになった。 ・憲法改正議論が高まって来た。 ・対北朝鮮強硬世論が盛り上がって来た。 ・かつての左翼運動が力を失った。 まず、小泉&安倍の支持率の高さだが、これを「右傾化」と捉えて、同様に「右傾化」していると定義した僕のところに電話してくるのは、あまりにもお門違いだ。なぜなら僕は小泉&安倍はおろか自民党すら支持していない。それらの人気が高まるのが「右傾化」というならば、あまりに短絡に過ぎる。 8月15日の靖国神社についても同様だ。靖国神社には先の大東亜戦争の戦没者が数多く祀られているが、別に8月15日にこだわる必要はない。あえてそこにこだわって、政治的パフォーマンスをやったのが小泉前総理であるだけだ。しかも、村山談話継承と言う屈辱的な歴史観を持って。 さらに、憲法改正論議にしても、中東戦略が行き詰まりを見せたアメリカが、自らの都合に合わせて日本を利用する魂胆でなそうとするもので、議論が9条のみに集中している。かつてアメリカの都合で押し付けられた憲法が、いま再びアメリカの都合で変えられようとしている。 それはおよそ独立国家の態度ではなく、戦後体制を強化して、アメリカの従順なる家来と化す現象に過ぎないではないか。左翼運動の衰退もそうだ。意外に思われるかもしれないが。僕は左翼運動に一定の評価をしている。 いかなる時代にあっても人民の権益に立脚し、伝統的価値観と資本主義的圧搾に対抗して、反体制の反骨精神を貫くものを左翼運動と定義した場合、それはいかなる時代でも必要であると思うからだ。 ところが、そうした精神が衰退したのは、戦後の左翼運動が人民に届く言葉を喪失し、単なる労働貴族としてのノスタルジックな既得権益集団になり果てた事によるところが大きいが、それ以上に現代の国民が反体制的な反骨精神を失い、「小泉劇場」などの体制側政治ショーに踊らされているだけではないか。 そのような現象が「右傾化」というならば、僕はかような「右傾化」には断固として反対する。なぜならその「右傾化」の先にあるのは、我が国にとって最も陰惨で不幸な形での「全体主義」と、没落ではあるまいか。 今回のように僕に電話してきたマスコミにしてもそうだが「右傾化」の実態を、いま日本で進行している前述のような現象と、我々の父祖が命を賭けて実現しようとした日本と余りにも乱暴に混同しているが、我々はその実態が大きく異なる事実に気付かなければならない。 そこにおいてこそ始めて、マスコミが定義したり、現体制が押し進める浅薄な「右傾化」とは明らかに違った、真の日本再生がはじまるのではあるまいか。
by shikisima594
| 2007-08-03 23:43
| 随想・雑記
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