古森「テロ組織を潰すためのモグラたたきは、どんどんやってもらいたいですね。テロの芽となりかねない国というのは、芽のうちにどんどん摘んでもらいたい。テロになってからでは困ります。」(75頁)
古森「テロリストというのは、話し合いを拒否しているからテロリストなわけです。交渉をしないで、いきなり暴力をふるうのがテロリストです。」(86頁) 田久保「テロというのは、いつ、どこから、いかなる手段で、誰をターゲットに、何を目的に、どういう手段で襲いかかってくるのか分からない。新たな二十一世紀の敵なのです。」(232頁) 先に紹介した『反米論を撃つ』で、自称保守論客二人が、自らのテロリズムに対する考へを述べたものだ。かうした全否定は、反戰サヨクとされる者が、戰争に對し絶對反對完全否定の姿勢を示す事と趣を一にする。 斯くの如き、全否定全肯定の思考は、西欧に二元論として誕生し、発達した觀念であり、凡そ日本でさうした思考で物事を全て片付けやうとする姿勢は当らないだらう。併し、今では右も左もテロリズムに関しては、二元論的見方を採用し、論じてゐる事は滑稽ですらある。 およそ現代日本に於ひて、保守を自認せる者は、戰争行為其れ自体を完全否定する言辭の愚を深く識つてゐる。然るに、テロルもまた同様に論じられなければならない。其のテロと呼ばるる行為に及ぶに当つて、複雑な事情の存する事に異論はあるまい。 戰争は有事、テロは平時、故にテロリズムは法と社會秩序を紊乱し、人心を混乱せしむる物である。故に否定されねばならぬと論ずる者があれば、其れは法を全能且つ唯一絶対の規範也と信仰する者にして、思考を停止せる者である。 論壇に於ひて禄を食む者達は、米國九月十一日同時多発テロに際し、テロリズムに関して全否定の姿勢を取り、自らの体裁を繕つてゐたが、一般庶民は然らず。むしろ一般庶民の方が、九月十一日米中枢同時多発テロはさて置き、歴史的な感覚を宿して、テロリズムを觀てゐる。 端的な例を挙げやう。毎年年末年始になると、テレビから太鼓の音が響ゐて来る。大石内蔵助が打ち鳴らす、吉良邸討ち入りの陣太鼓だ。そして、赤穂浪士四十七士が吉良邸に討ち入り、見事、主君の仇である吉良上野介の首を討ち取る。 これは当時の法に背いた行為であり、結果として討ち入り参加者四十六名が切腹処分となつてゐる。時に元禄、江戸時代の中でも平和な時代の代名詞となつた時代である。どこからどう見ても、四十七士の行為はテロ行為である。 これを毎年見て、日本人は胸のすく思ひをし、涙を流す。其れが庶民の中に流れる、歴史的な感性に基づいた、テロへの普通の見方ではあるまいか。どこの評論家が、「忠臣蔵」を放映したテレビ局に「テロ容認ドラマを放送するとは何事か!」と云つたか。 「忠臣蔵」だけでは無い、藤田東湖先生の「正氣の歌」は、「世汚隆無きにしも非ず、正氣時に光を放つ」として、中大兄皇子が蘇我入鹿を暗殺した事、北条氏が元の使ひを叩き斬た事、そして先の赤穂浪士の故事を挙げ、日本の正氣と讃へてゐる。 むろん、一般庶民は、かうした事象を「テロ」と觀たりはしない。其れは義挙であり、忠義一貫の言動であり、時空を超へて、脈々と流れる日本人の本性とでも云ふべき感性に鋭く、深く訴へ掛ける姿なのだ。 併し、実際は今の価値観は元より、当時の法規に依つてすら許されざる行為も多分にあり、「テロ」の基準からすれば、明確なテロは多数ある。しかし、それが仮にテロと規定され得る物であつたとしても、何時の時代の一般庶民も、其れを教条的なイデオロギーで全否定全肯定する様な事はなかつた。 テロリズムを全否定しやうと決めて掛かれば、かうした我が國の行方に深く関はつた、歴史的出来事を如何に考へるのか。テロを全否定するのも、全肯定するのも誤つてゐる。所詮は、それぞれの事象毎に、歴史的価値觀を以てして、各自の胸の内で思考するしかないのだ。 応援のクリックを賜りたく存じ候。
by shikisima594
| 2006-03-08 20:56
| 随想・雑記
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