現在の日本は、法律上正式名称を「日本国」という。そしてこの国は、六十数年前、法律上の正式名称を「大日本帝国」といった。この二つの日本はどういうかかわりがあるのかというと、国家としては、同一の関係にある。
これは当たり前の話に思われるかもしれないが、しかしこれを証明するのには労力がいる。というのも、これは数ある解釈のうち、一つに過ぎないからである。法律の話で言えば、この二つを隔てるのは憲法である。これを例にとってみるが、この二つにおいて、憲法は文章として完全に違っている。 日本は明治に「大日本帝国憲法」を始め、現在では「日本国憲法」が施行されている。このうち後者は、外国から押し付けられたものであることは、言わずもがなである。その交代の手続きが正当にされなかったことから、これは「違憲」であるという解釈もある。 すなわち、現在でも効力を持っているのは大日本帝国憲法であると。しかし、現行法は当然そういう解釈はしていない。現憲法は、全憲法を改正したものだという解釈があって、現憲法は機能しているのである。 とすれば、憲法で考えると、この二つの日本には連続性があることになる。そして世間では、というより学界では、現在の日本政府の起源をここに求める流れがかなり有力である。 そして、憲法というものが制定される前の日本は、幕藩体制、いわゆる封建制社会であった。江戸幕府というものが権力の忠信であったというのは有名な話である。とすれば、現在の政府は、こうした幕府のようなものとは全く連続性の無い存在であるとも考えられる。 文化や民族という大局的なところではなく、少なくとも国家組織としては、この日本は全く断絶した時代区分によって、歴史が作られてきた可能性があるということだ。日本国とは果たして、「明治政府」が帝国憲法を定めた日に始まったのだろうか。 本稿の問題提起はここにある。「鎌倉幕府」「江戸幕府」「明治政府」と歴史にのこる政府組織は、我々は全く別のものと考えているのではあるまいか。それらにもし連続性が無いとなれば、前政府の正当性を以て現政府の正統性を疑うことも道理に適いかねないのだ。 では、その連続性は証明できるものであろうか。現在の一般的な歴史観では、この問いには不可能と結論付けられがちである。しかし、じつはこの証明は可能なのである。その裏付けこそ、天皇陛下のまします朝廷という政府組織にある。歴史上の政府組織を引き合いに出し、それらを証明したい。 朝廷というのは、学界では一世紀は遡らないとされる、天皇陛下を補佐する政府組織である。伝説による起源では、日向の天孫降臨から始まり、神武東征を経て、大八洲全体を統治する過程が伝えられる。 ところでこうした問題は、実際の場合と形式の話はあまり区別されない。法律上、どう認識されているのかということを考えるものであるから、むしろ形式性に重きを置く議論となることを、ご了承いただきたい。 現政府が、明治に始まった政府を前身としていることはすでに述べた。それでは、明治政府自体はそれ以前の政府組織といかなる関係を持っているのだろうか。その答えは、日本における近代史の曙を明らかにすることで自ずと示されよう。 ここにおいて、大政奉還と王政復古は最も重要な歴史事項となる。それぞれ説明する。大政奉還とは、幕府が政治の実権を朝廷へ返すという意味合いがある。土佐藩の建白書を受けた幕府が、政治の実権を朝廷側に戻すという上奏文を朝廷に送り、受理されてそれにいたったという経過がある。 これを受けた朝廷は、岩倉具視が中心となって薩摩、土佐、安芸、尾張、越前各藩の兵力を結集させ、明治帝のおわす京都の宮殿で政権交代を宣言した。これを王政復古という。そして、このときに発足した「政府」こそ、明治政府なのである。つまり、明治政府というのは、朝廷のことであったのだ。 文責 ムネカミ 応援のクリックを!
by shikisima594
| 2006-03-29 11:54
| 随想・雑記
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